増田ひろのり

活動レポート: トピック解説

藤井名誉教授「温暖化と街路樹・緑道」セミナーを受講

2024.7.23

7月20日に幡ヶ谷区民会館で行われた、渋谷区玉川上水緑道利用者の会が主催の「温暖化と街路樹・緑道」セミナーに参加しました。
昨年、渋谷区で行われた樹木健全度調査再診断への助言もされ、渋谷の公園整備においても存在感を発揮されている藤井英二郎 千葉大学名誉教授が講師。お話を初めて伺うことができ、大変有意義でした。
印象に残ったポイントを報告します。

緑化政策の目標は「樹冠被覆率」30%
「樹冠被覆率」とは、その土地を覆っている木の枝や葉の面積の割合。木陰ができる面積の割合と言ってもいいかもしれません。日本では緑化の指標は「緑被率」が一般的ですが、「緑被率」には草地や低い植え込みの面積も含まれます。地球温暖化対策やヒートアイランド対策には、日光を遮って地表近くが熱くなるのを防げる「樹冠被覆率」の方が重要だそうです。
欧米の都市では「樹冠被覆率」の目標を30%にするのがスタンダード。渋谷区の「樹冠被覆率」は14%。早急に樹冠被覆率を高めていかないと暑さ対策が間に合わないとの指摘でした。
なお2.6kmに及ぶ玉川上水旧水路緑道は、樹冠被覆率100%近く(一部ベニバナのエリアを除くと仰った)を目指せる環境だそうです。

街路樹は、下枝を剪定して上を大きく伸ばす
街路樹についての話を、私なりにラフにまとめた絵がこちらです。

日本の道路行政では、街路樹の管理基準に温暖化対策観点がなく、行政が専門的判断よりも苦情の回避を優先してきたため、街路樹が小さくまとまる傾向になっています(図右)。このような管理をすると、木陰が少なくなるだけでなく、樹が枝を伸ばせず幹で補おうとしてデコボコに育つなどの悪影響があるそうです。海外では韓国や中国を含め下枝を剪定して上を伸び伸びと活かした街路樹が多いそうで、藤井先生もそれを主張されていました(図左)。
また電線との干渉については法的に考えを整理。街路樹は道路管理者が設置する道路附属物。電線は道路管理者以外が許可を得て設置する道路占用物。なので道路管理者は、まず街路樹の形を考えて、次に電線をどう通すか考える順が正しいという話で、説得力がありました。

公園の樹木は、窮屈に手を入れすぎないこと
街路樹も、公園の樹も、まずは植える時に地下の根を張る空間(「植栽基盤」という)を十分に取ること。次に樹を植えて、最後に表面を舗装することが望ましいそうです。日本では舗装して穴を開けて樹を植えるという、逆の工程が行われるのが問題だとのこと。
また、雑草を防ぐために樹の近くまで舗装で地面に蓋をすると、土や樹が窒息します。樹の近くまで舗装をしすぎない。土を固めすぎない。雑草を取りすぎない。落ち葉を掃きすぎない。キノコが生えたり、幹が傾いても、根がしっかり張っている限り問題にしない。手間がかかっても、多少汚くても、自然を受け入れて樹木管理することが大事だとのことでした。

行政職員の短期サイクル異動が緑化政策をダメにする?
1970年代から、日本の行政は樹木管理業務を直営から委託へとシフトしてきました。
職員が短いサイクルで組織を異動する行政機関では職員に専門技術が身に付かず、委託先を管理することもできません。これを改めないと樹木管理の質は向上しません。樹木は役所が直接管理すること、そのために役所内に異動のないスペシャリストを育てることを、提言されました。
官と民の役割をどう線引くか。官の組織や人材に何を求めどう育てるか。環境行政に限らず、日本の行政組織が直面している大きな課題です。

珠玉の時間。緑道の樹木を取り上げたケーススタディ
講演の終盤は、玉川上水旧水路緑道の樹木の写真1つ1つを投影しながら、樹の状態や管理の方向性を藤井先生がジャッジして解説するタイム。聴いていて、これは地域にとって珠玉の時間だなと思いました。
専門家から身近な緑道の樹の評価を1つ1つ聴ける機会は、ケーススタディとなって、住民が身近な公園の樹の状態を一歩進んだ目で見られるようになることに繋がります。住民が樹を観る目と言葉を持つことで、住民と行政の間で樹木管理の会話が生まれ、行政の知見が向上することにも繋がります。その結果、地域全体で緑化を進める力が底上げされると思うのです。
一度の講演だけで多くを理解することは難しいですが、このような機会がもっと多くあったらと思いました。藤井先生監修の「ツリー・キーパー講習」?みたいなものを区が開催してもいいですよね。

セミナーの最後はロッシェル・カップさんのミニ講演も行われて閉会。時間たっぷりで有意義な会でした。藤井先生、主催の渋谷区玉川上水緑道利用者の会の皆様、ありがとうございました。